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「サビ」の雑学 異種金属接触腐食

 

サビない水

異種金属接触腐食・ガルバニック腐食・局部電流腐食
種類の異なる金属を接触させ電解質溶液中に浸漬すると、両者の標準電極電位が異なるため、イオン化傾向の大きい金属(卑な金属)と小さい金属(貴な金属)間に電位差が生じ電池(局部電池、ガルバニ電池)が形成され電流が流れ(局部電流)腐食が生じる。このような異なる金属を電極とした、局部電池の形成による電気化学的反応で生じる腐食を異種金属接触腐食・ガルバニック腐食・局部電流腐食と呼ぶ。 電流は接触部では貴な金属から卑な金属へ流れ、溶液中では卑な金属から貴な金属へ逆に流れる。その結果、卑な金属は金属イオンとなり溶液中に溶解し腐食が促進される。またな金属は、金属イオンとなり溶液中へ溶け出すと同時に、電子が貴な金属へ移動する。外部へ電子を供給する電極を陽極(アノード)、外部から電子を受け取る電極を陰極(カソード)と呼ぶ。 電位の低い金属(イオン化傾向の高い金属)が陽極に、電位の高い金属(イオン化傾向の低い金属)が陰極に相当する。両者の関係から、電位差が大きいほど、電流が増大するほど腐食も促進されることになる。
例えば、硬質材料である超硬合金(WC-Co合金)とステンレス(SUS316)を酸性溶液中で接触させた場合、腐食速度は電子の移動速度すなわち電流値の大小であり、それを決めるのは両者の標準電極電位の差である。標準電極電位差は単独腐食の局部電池機構における電位差より大きく、電子の移動速度が速くなり腐食速度が増加する。WC-Co合金中のCoが優先的に腐食する。
炭素鋼と黄銅では炭素鋼単独の場合より接触した炭素鋼の腐食は増大し、黄銅の面積が広いほど炭素鋼の腐食は増大する。
鉄と鉄のような同種金属でもその組織・表面状態の相違などで、電位差があれば異種金属接触腐食が発生する。
陽極となる金属の腐食の速さは面積比によっても異なる。例えば、普通鋼板にステンレス鋼のくぎを用いた時、普通鋼板の腐食が増すことはないが、ステンレス鋼板に普通鋼のくぎを用いた場合にはくぎはたちまち腐食してしまう。一般的な関係は以下のようなものである。  P=P0(1+B/A)  P :貴な金属に接触後の卑な金属の腐食速度 P0:卑な金属の単独での腐食速度  A :卑な金属の表面積 B :貴な金属の表面積 
金属組織の違いによる腐食
合金のほとんどがミクロ的に見ると均一ではなく、部分的に組成の違いがあるのが通常である。鋳造後、均一な固溶体が形成されれば問題はないが、凝固した組成の中に著しく濃度の異る相が形成されると、それぞれ相がミクロ的に接触した状態となり、相間で電池を形成され腐食され易くなる。 卑金属を主体とした相(固溶体)が陽極となり、貴金属を全体とした相が陰極の状態となって卑金属を主体とした相金属イオンが溶液中へ溶解する。鋳造後、熱処理により組織を均一化処理することでこれらによる腐食を防ぐ方法もある。 

Li

Li+

-3.05


 
イオン化傾向の高い金属
【卑な金属】





マグネシウム(Mg)
マグネシウム合金












亜鉛(Zn)
アルミニウム(Al/52S-H) 
アルミニウム(Al/24S-T) 
軟鋼
錬鉄
鋳鉄

ハンダ(Pb(50%).Sn(50%))


(Pb)
スズ(Sn)
マンガン青銅(Cu.Mn)
黄銅(Cu.Zn)
アルミニウム青銅(Cu.Al)
(Cu)
珪素青銅(Cu.Si)
Cu(70%).Ni(30%)
ニッケル(Ni.不働態)
ステンレス鋼(304/不働態)
ステンレス鋼(316/不働態)


【貴な金属】
イオン化傾向の低い金属

Rb

Rb+

-2.93

K+

-2.93

Ba

Ba++

-2.90

Sr

Sr++

-2.89

Ca

Ca++

-2.87

Na

Na+

-2.71

Mg

Mg++

-2.37

Be

Be++

-1.85

Al

Al+++

-1.66

Ti

Ti++

-1.63

Zr

Zr++++

-1.53

Ti

Ti+++

-1.21

Mn

Mn++

-1.18

Cr

Cr++

-0.91

V+++

-0.88

Zn

Zn++

-0.76

Cr

Cr+++

-0.74

Fe

Fe++

-0.44

Cd

Cd++

-0.40

In

In++

-0.34

Mn

Mn+++

-0.28

Co

Co++

-0.28

Ni

Ni++

-0.25

Sn

Sn++

-0.14

Pb

Pb++

-0.13

Fe

Fe+++

-0.04

H2

2H+

0.00

Cu

Cu++

+0.34

Cu

Cu+

+0.52

2Hg

Hg2++

+0.79

Ag

Ag+

+0.80

Hg

Hg++

+0.86

Pd

Pd++

+0.99

Ir

Ir+++

+1.00

Pt

Pt++

+1.19

Au

Au+++

+1.50

Au

Au+

+1.68

防食方法 【1】
カソード防食法
pHによる防食 pHの低下とともに水素イオン濃度は増加し、水素発生型のカソード反応速度も大きくなる。従って酸性雰囲気は防食に好ましくない。中性溶液でも局所的にpHが下がり局部腐食を生じることがある。
溶存酸素量による防食 酸素消費型のカソード反応は、溶液中の溶存酸素の還元反応が主反応となる。この反応を抑制するには、酸素濃度の低減、酸素拡散の抑制方法が考えられる。前者は科学的薬品により溶存酸素を除去する方法や、煮沸する(温度が上がると酸素溶解量が減少する)方法、後者では溶液の流速を抑え酸素の拡散を防止する等がある。
アノード防食法
電位による防食 ガルバニック腐食では、腐食を防止したい材料の電位を貴に設定する必要がある。小さな電位の差でも相手材との面積比によっては大きな腐食電流が流れることがある。電位を貴な方へシフトする方法に合金化がある。
不働態被膜形成による防食 金属の溶解過程で貴金属のような特性を示すような現象がある。金属が表面に酸化物、水酸化物等の被膜を形成し、表面からの溶解を阻止するような現象で不働態と呼ばれ、この被膜は不働態被膜と呼ばれる。鉄鋼材では鋼にNi、Cr等を添加したステンレス鋼として知られている、超硬合金では結合相金属をCoからNiにしたり、さらに酸化膜を作りやすいCr、Moを添加する方法や、結合相をTiとする方法等がとられている。
その他の防食法
焼結硬質材では表面にポアや欠陥があると隙間腐食が生る。カソード・アノード両反応を防止するために表面を完全に被覆してしまうコーティング処理等がある。
防食方法 【2】
腐食電池 

電解質(イオンを含んだ溶液)の中に2種類の金属を入れて間を導線で結ぶ。
例えば亜鉛と銅とすれば、銅がプラス、亜鉛が-の電極となる。銅から亜鉛の方へ電流が流れ、電流は逆方向への電子の流れで、亜鉛電極で電子が発生し、銅電極で電子が消費されることになる。亜鉛原子は金属の中に電子を残して、亜鉛イオンとなって電解質の中に溶出する。亜鉛イオンは電解質の中の水素イオンと入れ替わり、水素イオンは銅の方へ動いて電子と結合して水素ガスを発生させる。 この一連の反応は同時に起こり、もし導線を外すと止ってしまう。この反応が継続するには電流を流す回路が構成されなければならない。 この反応の中心は亜鉛が溶けてイオンに変わっていくことで、金属の腐食とは電池が構成される反応が起こって金属の表面がイオン化して溶出することである。このとき腐食するのは必ず-極側の金属であり、もう一方の金属では腐食は起らない。このような電池を腐食電池という。
腐食電池が作られるためには、次の2要素が必要である。  
電解質があること  
2種類の金属があり電気的に接続部分があること
普通の水でもわずかに不純物が含まれていれば電解質であるといえる。一種類の金属でも僅かな不均一や不純物で、ある部分が+極・-極となってミクロの腐食電池となる。このミクロな腐食電池によってある部分の原子が溶出すると、次に別の部分が新たな腐食電池となる繰返しで腐食が進行する。 
鉄の腐食と酸素

腐食電池では-極と+極で同時に反応が起こる。-極では金属が溶けてイオンになる酸化反応、+極では金属から電子を受け取る還元反応である。この反応を起こす物質は、鉄の場合では水素イオンと水中に溶けている酸素である。 水が酸性の時は水素イオンが多数あるので、鉄が水素を発生させながら腐食することになる。 水が中性の時は水素イオンの量が少ないので、水に溶けている酸素(溶存酸素)が反応の主体となる。腐食電池の-極で鉄イオンが作られ、+極で溶存酸素と水から水酸基が作られ、この二つが反応して酸化鉄となる。このように溶存酸素量が腐食の進行に大きく関与し、溶存酸素量は小さいが外部(空気中)から酸素が供給され続けることで腐食が進行する。 鉄だけで他の金属と接していない場合でも、部分的に酸素の供給量に差があると腐食電池を構成することになる。例えば水の中に鉄を入れて、その一部が空気中に露出している場合は水面のすぐ下で腐食が進行し、通気差腐食と呼ぶ。
不動態 
金属の中には腐食しやすいものとそうでないものがあり、その度合いを知る一つの尺度にイオン化傾向がある。一般にはイオン化傾向の大きいものほど腐食しやすいが、Al、Ni、Ti、Crなどの例外もある。 これらの金属では酸素との反応度が大きく、金属の表面が空気に触れたわずかの時間で酸化してしまう。このときにできる酸化膜は非常に薄く、均一で金属の光沢は元のままです。この膜ができることによって、その内部は外気と遮断され、腐食しなくなる。この皮膜を不動態皮膜といい、不動態皮膜をもっている状態を不動態化するという。 これらの金属が不動態化するかどうかは、環境条件によって決まる。中性の水の中では不動態化しても、塩酸や稀硫酸などによって不動態皮膜が溶けてしまう場合がある。アルカリ性環境では大抵の不動態皮膜は安定だが、アルミニウムなどは腐食が進行する。ステンレス鋼がさびないのは、多量に含まれるクロムによって不動態化するからである。
腐食抑制剤
腐食抑制剤としては、リン酸塩系、シリケート系、アミン系、高分子系、オキソ酸塩(モリブデン酸塩、亜硝酸など)など種々実用されている。添加する場合、地球環境にできるだけやさしい防食剤が求められている。クロム酸イオンは有用な防食剤であるが近年使用が減っている。腐食抑制剤が腐食を抑制する機構は三つに大別できる。  
不動態化を促進する添加剤=不動態化剤、不動態化剤には常に局部腐食の不安がつきまとう  
表面に酸化物以外の被膜をつくるなどして金属の溶出を抑制する場合=アノードインヒビター  
金属の溶出と対になって生じるカソード反応を抑制する場合=カソードインヒビター  

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